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タイ×韓国のタッグで世界を震撼させた 、2022年 ホラー映画の大本命『女神の継承』 のバンジョン・ピサンタナクーン監督単独ロングインタビュー!

観る者を圧倒する恐怖とエンターテイメントの完璧なる融合。待望の新作がいよいよ日本に上陸!

[映画紹介]
『チェイサー』(08)、『哭声/コクソン』(16)で、その名を轟かせた韓国映画界が誇る気鋭 ナ・ホンジンが原案・プロデュース。
バンジョン・ピサンタナクーンが監督を務める『女神の継承』は、カンヌ国際映画祭に出品され、世界中の度肝を抜いた『哭声/コクソン』の続編として、ファン・ジョンミン(『ただ悪より救いたまえ』、『ベテラン』)が怪演した祈祷師・イルグァンの物語をナ・ホンジンが思いついたことから、企画がスタート。その構想はタイの祈祷師をモチーフに、本作へと受け継がれ、『哭声/コクソン』のアナザー・バージョンとも言える衝撃作が完成。

[STORY]
タイ東北部の村で脈々と受け継がれてきた祈祷師一族 美しき後継者を襲う不可解な現象の数々…
小さな村で暮らす若く美しい女性ミンが、原因不明の体調不良に見舞われ、まるで人格が変わったように凶暴な
言動を繰り返す。途方に暮れた母親は、祈祷師である妹のニムに助けを求める。もしやミンは一族の新たな後継者として選ばれて憑依され、その影響でもがき苦しんでいるのではないかー。やがてニムはミンを救うために祈祷を行うが、彼女に取り憑いている何者かの正体は、ニムの想像をはるかに超えるほど強大な存在だった……

プロデューサー ナ・ホンジンとの関係、本作への想いをバンジョン・ピサンタナクーン監督が語る。

取材場所協力:Thai Food Lounge Dee(心斎橋BIGSTEP F)

──バンジョン監督とは2011年大阪アジアン映画祭での『アンニョン!君の名は』、2017年の『一日だけの恋人』、その間の2013年京都国際ヒストリカ映画祭での『愛しのゴースト』(映画祭題は『ピー・マーク』)上映時にもお会いしてますし、これで4回目になるんですが、それまでのラブコメ映画の出来があまりに素晴らしくて、すっかりホラー出身であるってこと忘れてました(笑)。なんたってニュー・ウェイヴ・タイ・ホラーの草分けでもある『心霊写真』(落合正幸監督によるハルウッド・リメイクは原題のまま『シャッター』)のクリエイターなのに。

バンジョン・ピサンタナクーン(以下B.P):確かに。ホラーは久しぶりですもんね。

バンジョン・ピサンタナクーン監督

 

──でもホラーというよりは、とても民俗学的というか、フォークロア的な要素を真正面から扱った映画だと感じました。恐怖を押し付けていくわけではなく、現代的な視点から土着の信仰をじっくり検証していく、というか。汎アジア系的に、そうした民俗学的伝承の流れにあるホラーは多いと思うんですけど、そのものすごいバージョンアップだと。

B.P:私はインドネシアの民俗学的なホラーも好きなんですが、日本でも人気ありますか?

 

──いやいや。僕は好きですけど『首だけ女』(ペナンガラン。内臓をぶら下げた女の首が飛び回る吸血妖怪)の系統くらいですかね。でもそれとはちょっと違うんですよ、今回の映画は。ホラー的な要素はもちろん多いし、しっかり怖くもあるんだけど、語り口が徹底してPOVで、モキュメンタリーで攻めまくってるところが学究的でもあるというか。

B.P:これはナ・ホンジンさんから提案いただいた最初のアイデアなんです。彼の『哭声/コクソン』と共通する「祈祷師」がテーマだけど、全く違うスタイルでやりたいと。祈祷師の人生そのものが撮りたかったので、こういう演出になりました。

 

──ナ・ホンジンはプロデューサーだけでなく原案も兼ねておられますが、どこまでシナリオの段階で詰められたんですか?

B.P:韓国の大学で講義をする機会があって、その時にナ・ホンジンさんからこの企画を貰ったんです。最初に30ページの詳細なシナリオをもらって。好きなように直してくれと言われたのでそうしましたが、主題的なところは最初から変わってないです。

 

──舞台はタイ東北部。バンコク等とはかなり異なる文化を持つイサーン地方ですね。『東北タイの子』という1982年の傑作でタイ映画にハマった僕には思い入れもある舞台なんですけど、あそこにはそうしたシャーマン的な方は今もいるんですか?

B.P:どの村にもいます(笑)。

 

──そうしたドキュメンタリ的な発端が面白いんですよね。エクソシズム(悪魔祓い)要素が増す本題に入る前に村社会における祈祷師の役割、巫女としての運命を受け継がざるを得ない家系の物語が素晴らしい。まだ何も事件らしい事件も起こってないのにそこでまず惹かれますね。

B.P:怖くなるシーンの前に、まずこれから祈祷師になる人の人生を描いてみたんです。結局最後には観客にも、「信仰心」ということに対する疑問がぶつけられますから。

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──我々が今まで見てきたもの、得体の知れない恐怖は一体何だったのか。「信仰」というものの土台がぐらつかされる、その恐怖に唖然とするんですよね。それにしても、森の奥にバヤンの像がありますよね。苔むして、いかにも何百年も信仰の対象であっただろうに、あっけなく首を断ち切られている女神の像。素晴らしく出来が良いんですけれども、あれはこの映画のために作られたんですか?

B.P:新しく作ったものです。イサーンにはああした偶像が色々あるんですけど、ちょっとオーバーに、2倍くらい増し増しで作っています(笑)。でも撮影の時にミン役のナリルヤ(・グルモンコルペチ)も、エキストラの村人たちも思わず手を合わせてましたね。

 

──だっていかにも神聖な感じがしますもんね。

B.P:スタッフも怖いな、と思ってたんでしょう。

 

──たぶん作り物だな、とは思いながらも、さすがに首チョンパされてたりしたら畏れ多いなと思ってしまうんです。日本にもお地蔵さんみたいに、その土地の守り神としての民間信仰における偶像崇拝みたいなのがありますし。

B.P:地蔵は知らないんですよね。神道ですか?

 

──いや、もともとは仏教ですね。でも、地蔵信仰なんかはアニミズム的なものと結びついてます。日本は仏教と神道と民間信仰がごっちゃになっている、いわば折衷的なバランスを維持して成り立ってる信仰体系なんですよ。だからかえって、日本人にはこの映画は判りやすいんじゃないかと。エクソシズムといっても、キリスト教的なものじゃないですから。

B.P:うんうん、確かに似てるかもですね。

 

──見棄てられた負の歴史そのものな産業遺産で、かつて虐げられ搾取されてきた工員たちの怨念と地場の動物霊が結びつくっていうところがフォークロア的な凄惨さを増してるんですよね。そういえば、ミンの箪笥を開けると悪夢封じのような、アメリカン・インディアン文化の「ドリームキャッチャー」みたいなものが見つかるシーンがありますが。

B.P:あれは悪霊を追い払えると信じられているもので、ドリームキャッチャーみたいなものじゃないです。ウコンの種類で「ワン」という葉っぱなんですけど、日本にはないですか? 魔除け効果があると信じられているターメリックの一種です。つまりミンが今、自分の身にいったい何が起こっているのか判っていない、何かを恐れていることを示してるんです。

バンジョン・ピサンタナクーン監督

 

──台詞にも出てきますもんね、ターメリック、つまりウコンだって。要するに、そうした枝葉末節こそが面白いんですよ、僕には。何より、サワニー・ウト-ンマさんが演じる巫女のニムさんに、あまりにもリアリティがあって。

B.P:彼女にはたくさん宿題してもらいました。参考動画もいっぱい見てもらったし、祈祷師のワークショップもやって、何回か練習してもらいました。それから、なにしろ100種類以上の祈祷師が現地にはいるのでどんなタイプにするか選ぼうと。

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──そんなにいろんな種類があるんですか?

B.P:まあ、嘘っぽいのが90%くらいなんですけど。ドラえもんの霊が乗り移ったっていう、映画にも出てくるような人も実際にいます(笑)。リサーチだけで1年ぐらいかけました。この映画では場所選びに大変時間を使いました。雰囲気を一番大切にしたんです。例えばバヤンの偶像がある広場もいろんな場所を組み合わせたんですね。山を登って村が見えるのと、洞穴のある場所はまた別の場所。神秘的な雰囲気を出すために何箇所か使いました。

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Text by ミルクマン斉藤

 

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