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【動画インタビュー】三島有紀子監督⾃⾝が47年間向き合い続けた「ある事件」がモチーフの⾃主映画『一月の声に歓びを刻め』

三つの物語の舞台には、北海道の洞爺湖、東京の八丈島、そして大阪の堂島が選ばれた

三島有紀子監督にとって十作目にあたる映画『一月の声に歓びを刻め』がシネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、アップリンク京都ほか全国にて好評公開中。

本作品は、三島有紀子監督⾃⾝が47年間向き合い続けた「ある事件」をモチーフにした映画です。

当初は自主映画の企画としてはじまり、三島監督自身が幼少期に受けた性暴力事件がモチーフになっており、これをいま映画にするためには、自主映画でなければならなかった。故郷である大阪の堂島を舞台にした同作のロケハンで訪れた場所で、偶然事件の犯行現場に遭遇した三島監督は、自身の過去を掘り下げて、映画を作ろうと決意。

第四一回モントリオール世界映画祭コンペティション部門審査員特別大賞をはじめ、数多くの賞を受賞した代表作『幼な子われらに生まれ』(二〇一七年)のほか、『しあわせのパン』(二〇一二年)、『繕い裁つ人』(二〇一五年)、『Red』(二〇二〇年)など商業映画のなかに作家性を込めてきた三島監督が、オリジナル脚本による本作でその作家性をついに遺憾なく発揮している。

三つの物語の舞台には、北海道の洞爺湖、東京の八丈島、そして大阪の堂島がそれぞれ選ばれた。第一章の洞爺湖篇で、性暴力の被害を受けて亡くなってしまった娘を忘れられない初老のマキを演じたのは、カルーセル麻紀。カルーセルはトランス女性の当事者としてよく知られているが、マキを演じるにあたり、これまでのカルーセル自身のペルソナを剥がすように薄化粧姿で熱演を見せている。第二章の八丈島篇で、妻を交通事故で亡くし、娘の妊娠に動揺しながらも受け入れてゆく父親の誠役には、数々の映画に出演してきた俳優の哀川翔がキャスティングされた。ぶっきらぼうながらも娘を深く愛する父親を演じた哀川は、繊細な所作のひとつひとつに心情を宿らせていると、三島も信頼を置いている。第三章の堂島篇で、六歳のときに性暴力の被害に遭ったトラウマから誰とも触れ合えずにいたれいこ役には、いま最も輝く若手俳優のひとりである前田敦子。抑制された演技からはじまり、感情が流露される終盤にかけてエモーショナルに高まってゆく難しい役所を、見事に演じ切った。こうして自主映画であったにもかかわらず、本作には屈指の俳優たちが集結した。

大阪市内にて、脚本・監督の三島有紀子さんに本作への想い、製作秘話をインタビューさせていただきました。

■三島有紀子監督インタビューをYouTubeチャンネル「SHOMI」にて紹介!( 約8分に集約)

インタビュー会場にて、本作のロケ地協力・エキストラ集客などのサポートをされた三島監督の中学校の同級生のかたとバッタリ! インタビューにご協力いただき、三島監督の中学校時代のエピソードなどもおうかがいしました! ❝素❞の三島監督が!?

■大阪 堂島篇 三島有紀子監督×同級生インタビューをYouTubeチャンネル「SHOMI」にて紹介!( 約8分30秒に集約)

[STORY]

十二月の雪深い北海道・洞爺湖のほとり。マキが遠くに見える中島に向かって、「れいこ……」と囁く。れいことは、わずか六歳でこの世を去ってしまったマキの次女である。年が明け、マキのひとり住まいの家に家族が集まった。マキが丁寧に作った御節料理を囲んで団欒のひとときを過ごす家族だったが、そこにはそこはかとなく喪失の気が漂う。マキはかつて性別適合手術を受けて長らく女性として生きてきたが、長女の美砂子はそんな親のことを完全には受容できていない。「来るのこれで最後かも」と言い残して、美砂子と夫、その娘たちは去ってゆく。ひとりきりになったマキのいる部屋が水の音に浸されてゆくと海のなかのような空間へと変質し、彼女はそこでれいこの巻き込まれた性暴行事件の一部を再演しはじめる。れいこを失ってしまってから四十七年の月日が経ってもなお、マキは窒息しそうな世界で喪に服しつづけているのだった。

©bouquet garni films

大昔に罪人が流されたという東京・八丈島。牛飼いの誠の家に、娘の海が五年ぶりに帰省した。明らかに身重である海に、しかし誠はなかなか聞き出せない。誠は車の運転中に、幼い頃の海との会話を再演しはじめる──「とっちゃん、もういいじゃん。十分お母さん頑張ったよ」。誠と海は、交通事故に遭った母親の延命治療を止める決断をした過去を共有していた。その罪の意識はいまも消えていない。海の部屋で手紙を発見した誠は、そのなかから菊池礼太の名が書かれた離婚届を取り出す。その男はフェリーで島へとやってくるらしい。誠は一目散にフェリー乗り場へと車を走らせる道程で、海に出くわす。ようやく海に妊娠のことを問いただした誠に、彼女はいつ離婚してもいいからとプロポーズを受けたのだと打ち明ける。誠は海を乗せて走り出す。到着したフェリー乗り場で海は堤防へと走り出し、近づくフェリーに向かって無心に愛しい人の名を叫ぶ。

©bouquet garni films

吹き荒ぶ風のなか、下船せずにいる女がいる。喪服に身を包んだれいこが辿り着いた大阪・堂島。五年前に別れた元恋人である拓人の葬儀に駆け付けたのだった。喫茶店で少し離れた席に座るぎこちない母と娘。れいこは若い恋人を同伴した母の真歩に、ほんの数日前に拓人と電話で言葉を交わしたのだと話す。拓人との記憶が亡霊のように付き纏ったまま淀川を彷徨っていたれいこは、橋の上から飛び降り自殺をしようとしている女を目撃する。そのとき、「トト・モレッティ」と名乗る男がれいこに声をかけた。拓人の好きだったナンニ・モレッティの『息子の部屋』を想起させたその源氏名にいざなわれるがまま、れいこはレンタル彼氏を生業にしているという男を買う。ホテルの一室で、れいこは六歳で経験した性暴力被害によって恋人とも身体を重ね合わせられなかったとトトに打ち明ける。次の日、れいことトトは犯行現場になった駐車場へと向かう。暴力的に蘇る記憶に苛まれたれいこは、そこに咲く金魚草を一心不乱に引きちぎる。漫画家志望のトトは自分の描いたれいこの似顔絵と共にその花々に火をつけ、そこに弔いの炎が燃え上がる。

©bouquet garni films

©bouquet garni films

 

最終章。中島行きの船へと乗り込むマキ。中島に到着したマキは足跡ひとつない雪原を進み、れいこの遺体が打ち上げられた波打ち際に跪きながら、過去の声でれいこの名を呼ぶ──「お前は、美しい。世界で一番、美しい」。その声の残響と繋がるようにして中島から堂島へと場所が移り、道を歩くれいこの歌声が大きく響き渡ってゆく……。

©bouquet garni films

 

Cast:

前田敦子
カルーセル麻紀
哀川翔
坂東龍汰
片岡礼子
宇野祥平
原田龍二
松本妃代
長田詩音
とよた真帆

 

監督:三島有紀子

大阪市出身。18歳からインディーズ映画を撮り始め、神戸女学院大学卒業後NHKに入局し「NHKスペシャル」「ETV特集」「トップランナー」など市井の人々を追う人間ドキュメンタリーを数多く企画・監督。03年に劇映画を撮るために独立し、東映京都撮影所などでフリーの助監督として活動、ニューヨークでHBスタジオ講師陣のサマーワークショップを受けた後、『しあわせのパン』(12年)、『ぶどうのなみだ』(14年) と、オリジナル脚本・監督で作品を発表。撮影後、同名小説を上梓した。企画から10年かけた『繕い裁つ人』(15年) は、第16回全州国際映画祭で上映され、韓国、台湾でも公開。その後、『少女』(16年) を手掛け、『幼な子われらに生まれ』(17年) では第41回モントリオール世界映画祭で審査員特別大賞、第41回山路ふみ子賞作品賞、第42回報知映画賞監督賞など、国内外で多数受賞。その後、『Red』(20年)、短編『よろこびのうた Ode to Joy』(21年『DIVOC-12』)、『IMPERIAL 大阪堂島出入橋』(22年『MIRRORLIAR FILMS Season2』) を発表。2023年コロナ禍での緊急事態宣言下の感情を記録したセミドキュメンタリー映画『東京組曲2020』公開。力強く美しい映像の力を信じ、永続的な日常の中の人間にある軋みを描きつつも、現代の問題を浮かび上がらせ、最後には小さな“ 魂の救済”を描くことを信条としている。

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