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- 2023-01-05 Thu
映画『ファミリア』成島出監督インタビュー。映画を観て、絶望の先の〈希望〉を感じてもらえたら。
情報提供/フリーメディアone( https://www.one-kansai.info/ )
その願い、絶望よりも深く、憎しみよりも強靭――― 山里でひとり暮らす陶器職人の父親と海外で活躍する息子、隣人でありながら交わることのなかった在日ブラジル人の青年…。“今を生きる”彼らのリアルな姿を軸に、独自の視野から〈家族〉という普遍的なテーマに挑んだ感動作『ファミリア』が1月6日(金)から全国ロードショー。
全国公開に先立ち来阪した成島出監督にお話を聞き、コロナ禍での撮影の苦労や制作への想い、そして役所広司さんをはじめとした俳優たちについて大いに語っていただきました。
相手の痛みを、自分の痛みとして受け止められたら〈家族〉。
―― 映画『ファミリア』が1月6日(金)からいよいよ全国公開。本作を多くの人に届けられる率直な感想は?
やっぱり感無量ですね。
―― コロナの影響で撮影が中断されたとお聞きしました。
2020年3月にクランクインしたのですが、緊急事態宣言を受けて撮影を中断せざるを得なくなった。学役の吉沢亮さんが大河ドラマの撮影を控えていたこともあって、1年半くらい撮影期間が空く状況になりました。
正直なところ、一度は完成を諦めたんです。というのも、在日ブラジル人役の俳優たちの多くは10代で、(メインキャストである)マルコス役のサガエルカスくんは16歳から18歳になってしまう。その年代の男の子が成長しないわけがないので、画がつながらないと思っていました。でも、撮影が再開しても見た目がほとんど変わっていなくて。そんな奇跡が起きて、無事に撮り切ることができました。
―― 成島監督はプロットを読んで監督を引き受けたそうですが、そのときはどのように感じたのですか?
プロットを書いた脚本家のいながききよたかさんは、愛知県・瀬戸市で焼き物の仕事をされている家庭で育って、お父さんの名前も役名と同じ〈セイジ〉さん。瀬戸市の隣は豊田市で、そこには在日ブラジル人が多く住む保見団地があります。本作はオリジナルストーリーではあるのですが、すべていながきさんの身近な話。体験してきた彼の実感でつくれるなら、嘘くさくはならないだろうと思えました。
―― 物語のなかである事件が起こります。その展開にわたしは驚いてしまったのですが、でも、実際にこういうことが起こっている現実があります。
世界で起こる大きな事件も、日本で起こっている事故も、〈日常では何が起こるかわからない〉という意味としてはそう変わらないと思っています。外国での大きな事件を特殊なことだと思いがちですが、地べたではつづいていることですから。
それに撮影中断の間に世界は変わりました。コロナで大切な人が亡くなるときに側にいられなかったり、ロシアがウクライナに侵攻したり、今まで想像していなかったことが実際に起きています。当初は荒唐無稽だと感じていたストーリーに、現実が追いついてしまったのではないでしょうか。
―― また、本作は〈家族〉という定義についても考えさせられます。
家族を描いている映画ですが、〈家族とは何か〉を具体的に設定したり、線引きしたりして制作したわけではありません。ただ、役所広司さんがあるインタビューで「その人の痛みを、同じように自分の痛みとして受け止められる。そうなったら、その人はもう家族なんじゃないか」とおっしゃっていて、すごく明確で正しい定義だなと感じました。
その現状に対して、ぼく自身に〈怒り〉があった。
―― 在日ブラジル人の現状もリアルに描写されています。繊細な問題でもあるので、映画に落とし込むのには少し勇気がいるのかな? と思ったのですが。
ぼく自身は、繊細な問題だと捉えていません。外国人に対する差別や虐待は昔からあって、今も変わっていませんから。
この作品では日本語とポルトガル語を話せる10代の俳優さんが必要だったので、実際に日本で暮らすブラジルの若者をオーディションで選びました。彼らは日本生まれとはいえ、小学校に入るまでポルトガル語しか話さない家庭で育っています。小学校に上がった途端、まわりが日本語になってもしゃべれないし、勉強にもついていけない。いじめられたりもしたそうです。そういった現実を聞いて、「嘘がないようにつくろう」と思いました。
―― キャストの現実と映画の状況はリンクしていると?
脚本では、映画の役とブラジル人キャストの実人生を近づけています。例えば、マルコス役のサガエルカスくんは日本で生まれ育っているけど、祖国はブラジル。パスポートの国籍もブラジルだけど、ブラジルという国へは行ったことも、見たこともない。マルコスは物語のなかで〈自分が何者なのか?〉と叫ぶシーンがあるのですが、それはサガエルカス自身の本音でもあるのです。
―― 観ている者にも、その悲痛な叫びが突き刺さりました。わたし自身、在日外国人の存在は知っていても彼らの現状を知らなかったし、見ようともしていなかった気がします。
主人公の誠治もそうでした。近くにある団地にブラジル人がたくさん暮らしているのに、交流を避けて関係をもたないようにしてきた。存在を無視するのは一番たちが悪いことだけど、ほとんどの日本人がそうで、誠治はその代表でもあるのです。でも、そんな誠治でも、マルコスやエリカといったブラジル人たちと出会うことで変化していきます。
―― 本作は在日ブラジル人の現状に光をあてながら、実際の悲痛な事件をヒントにしている部分もある。そのためか、多くの登場人物は怒りや憎しみを抱えています。
憎しみのパワーって凄いんですよ。ぼくはヘイトスピーチが行われていた大久保に住んでいた時期があって、スピーチを重ねるごとにヒートアップしていく姿を目にしていたから実感として知っています。
本作はヘイトクライムを取り上げていますが、「差別はいけません」という映画をつくるつもりはなかったのです。ただ、その現状に対して、ぼく自身のなかに〈怒り〉があった、というのはあります。
役所広司さんは、最初から誠治の顔で入ってきた。
―― 主演の役所広司さんは、誠治の強さと弱さ、かっこよさと情けなさを絶妙なバランスで演じられています。
役所さんとはぼくが脚本家デビューしたときから仕事をごいっしょしていて、今回は10年ぶり。ぼくがいうのもおこがましいですけど、改めてすごい俳優だなと思いました。未だに進化をしつづけているんですよ。若い俳優が努力して伸びていくのはよくありますが、役所さんの年齢とキャリアで、まだ伸びているのはとんでもないこと。もうレベルが違うというか、ステージが違うところに入りつつあるような気がしています。
―― 役づくりで監督と役所さんは話し合われるのですか?
お互いがわかりあえていたので、話し合いはそんなにしませんでした。誠治の生立ちを書いた人生表を渡して、役所さんはそれを読んで役をつくってくる。もうね、現場に誠治の顔で来るんですよ。役所さんではなく、最初から誠治で入ってくる。通常、俳優は撮影を重ねるごとに役の顔になっていくから、物語の順番に撮っていくのがベストなのです。でも、役所さんはラストシーンからでも撮れる。こんな俳優は、この人だけです。
―― 息子の学を演じたのは吉沢亮さん。ご本人はとても美形なのに、本作では普通の青年に見えます。
学は本当に普通の青年で、むずかしい役。誰がいいだろうとなったとき、吉沢さんがいいなと考えました。彼はあれだけ売れていて、いろんな役をやっているのに、透明なキャンバスみたいに色がついていない。とても稀有な俳優です。それに若い俳優はどうしても「俺が、俺が」と力んでしまうものなのですが、吉沢さんは泰然としています。
学という普通の青年が、難民キャンプで育った女性・ナディアと普通に結婚する。吉沢さんのキャラクターがあるから、その展開に説得力をもたせられました。
―― 在日ブラジル人たちを目の敵にする半グレのリーダー・榎本海斗を演じたMIYAVIさんも印象的です。
MIYAVIさんは、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の親善大使を努めています。世界中の難民キャンプを回るなど難民支援活動を真剣にやっている日本人アーティストはめずらしくて、ぼくはとても尊敬しています。
そんな彼に、なぜ海斗役をやってもらいたかったのかというと、虐待や差別されている側の人間の痛みを知っているから。ブラジル人たちを殴ったり蹴ったりするシーンは、痛みがわかっている人の手と足でやってほしかったのです。
―― MIYAVIさんも覚悟をもってこの役を引き受けられたのでしょうね。
MIYAVIさんと会ってお話をしたときに「ただいじめるのではなく、理由がほしい」といわれました。そのとおりだと思ったので、実際にあった事件をヒントにしてキャラクターを膨らませています。
映画のなかの海斗は泣いていませんが、演じているMIYAVIさんは心のなかで泣いています。MIYAVIさんだからだせた、複雑な味わいになっているのではないでしょうか。
―― 最後に、映画『ファミリア』を楽しみにしている方へのメッセージをお願いします。
映画では暴力・差別・分断といったネガティブな部分が描かれ、登場人物たちは絶望や悲しみを抱いています。でも、絶望が深ければ深いほど希望を失ってほしくない、そう願って制作しました。
絶望のなかで希望をもつためには、どうしたらいいのか―――。言い古されている言葉ですけど、ぼくはやっぱり〈愛・勇気・家族〉だと思います。
〈ファミリア=家族〉というタイトルの映画の最後、主人公である誠治は愛と勇気をもって向かっていきます。コロナ禍やウクライナ戦争などが起こった今は希望を持ちづらい時代かもしれません。映画を観て、絶望の先にある〈希望〉を感じてもらえたらいいなと願っています。
2023年1月6日(金)より、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、T・ジョイ京都、MOVIX京都、kino cinéma神戸国際などにて公開。